道徳科教材研究の出発点 ~教材に対する見方・考え方の5つのポイント~

 

道徳科の授業力を向上させたいと考えたとき、まず初めに思いつくのが、「教材に対する見方や考え方を深める」ということでしょう。この「見方や考え方」という言葉をよく使いますが、そこにどのような意味があるかを考えているでしょうか。

 

道徳科で「教材に対する見方」といったとき、私は、教材そのものがもつ意義を見出すことに意味があると考えます。授業である教材を用いようとするとき、その教材のもつ価値観やメッセージ、テーマ性をとらえようとします。『手品師』の場合なら、誠実に生きることについて、教材の世界観やストーリーから見出そうとするでしょう。教材全体が我々に訴えかけるテーマ性といったものもあるかもしれません。これらを、教師の思いや主観を可能な限り排除して、純粋に教材を見つめてとらえることが「教材に対する見方」であるといえます。

 

一方で、「教材に対する考え方」といったときには、「教材に対する見方」を通して得た教材のもつ価値観やテーマ性について、授業を構想する教師が考えを明確にもつことに意味があると考えます。『手品師』という教材に示された誠実についての価値観を、共感的に捉えるか批判的に捉えるかによって、「誠実についての考えを深める」というゴールは同じでも、構想される授業は全く異なるものとなるでしょう。

そして、この「教材に対する見方や考え方」を明らかにしていく営みが教材研究の役割なのです。

 

教材に対する見方や考え方を鍛えていくのは、決して容易なことではありません。自作教材を作成した経験のある先生ならお分かりいただけると思いますが、一本の教材を作成して実践するために押さえるべきポイントはいくつもあります。文章であれ、視聴覚教材であれ、ストーリー性があってそれなりにまとまっているだけでは、道徳科の学習で用いる教材にはなり得ません。それは、道徳科の教材に求められる要件が、授業実践そのものを左右するほど重要なものだからです。

教材を作成してみると、道徳的問題だけでなく、内容項目の見方や子どもたちの実態とのかかわりなど、教材そのものを俯瞰してみる力が必要だということがわかります。それはそのまま、教科書等の教材を研究する際に必要な力となります。道徳科として授業が機能するような教材をつくる営みは、そのまま教材研究で欠かせないステップだといえるのです。

 

私は、教材研究力の指標として、以下の5つのポイントを挙げたいと思います。

① 道徳的問題のとらえ

➁ 中心となる道徳的価値の理解

③ 他の道徳的諸価値との関連

④ 児童、生徒の実態のとらえ

⑤ 教材そのものへの理解

 

これらは、私が教材を作成する際に、最低限満たしたいと考える要件そのものです。教材に対する見方も、考え方も含まれる内容となっています。また、①から⑤へと順を追って進めていくことで、教材研究と同時に、自分が実践しようと考える授業の構想が明確になります。