教材研究のポイント④ 児童生徒の実態を把握する

 みなさんが学習指導案をどのような過程で作成していくかについて、思い出してみてください。どの教科の学習指導案も、最初に主題設定の理由を書くと思います。そして、その項目のひとつに、必ず「児童の実態」を書くのではないでしょうか。

 

 授業とは、「子ども」、「教材」、「教師」の三者の相互作用による営みによって成立します。ですから、教材に対する教師のアプローチは、子どもたちの学びの様子や道徳性に関する実態と、密接に関連する必要があります。
 子どもたちが学習するということは、教材として提示される問題を解決していく営みそのものです。教師は、子どもたちに提示する教材を吟味し、解決すべき価値ある問題として提示します。そして、各教科・領域における学び方を通して、子どもと教材との相互作用を取り持つという役割があります。

①「子ども」と「教材」の関係
 教師は、目の前にいる子どもたちの実態をもとに、「この教材を取り上げたら、子どもたちはどのような反応を示すのか」や、「この問いを提示したら、どのような思考を展開し、いかに課題を解決するための筋道を構成するのか」などを十分に予想し、検討することが大切です。そうすることによって、一人一人の子どもの思考の様相に応じた具体的な支援が導かれてきます。

②「子ども」と「教師」との関係
 学習の主体者である子どもたちが、これまでの学習でどのような見方・考え方を学び、それぞれの教科・領域における「学び方」をどのように身につけてきているのかなどを検討することが必要となります。
道徳科の教材研究においては、教材が示す道徳的問題に対して、子どもたちがどのようにアプローチしていくかを的確に見取ることで、発問や評価の質を高めることができます。ですから、この指標における最初のレベルは「本時の内容項目に関する子どもたちの実態を把握する」ことです。

 そのうえで、把握した実態をもとに、子どもたちに培いたい力として明確化していくことがレベルアップのポイントです。実態を把握するためには、日々の実態の見取りはもちろん、対人関係や内容項目に関する事前アンケートなども活用し、できる限り子どもたちの姿を客観的に把握することも有効な方法です。さらに、同じ内容項目での学習の様子や、その際の子どもたちの反応と課題なども明らかにしておくとよいでしょう。
こうして把握した子どもたちの実態をもとに、「子ども」、「教師」、「教材」の三者から導き出された授業像をもとに、教師が「どのような力を子どもたちに培いたいのか」を明らかにするのです。

 本時の授業の教育的価値や教材の構造,学習指導要領などにおける位置づけ,内容の系統性や困難性等などを明らかにし,教師として何を教えるかについての分析と考察を適切に加えたとしても,それが子どもたちとの授業場面に効果的に生かされなければ,それは絵に描いた餅となります。子どもたちに教材のもつ道徳的価値を獲得させるためには,教材と子どもたちとを有機的に関連づける方策を考え,授業の具体的な姿をイメージし、子どもたちに培いたい力として明確化する必要があるのです。

 単なる子どもたちの実態把握から、それを授業のなかでどのように生かすのかにまで思いを致すことで、確かな教師の授業観が構築されていくでしょう。