教材研究のポイント① 道徳的問題を的確にとらえること

 道徳科における教材には、本時の学習で追求する道徳的問題が含まれています。その道徳的問題を、教師がどのようにとらえるかが、授業の成否の鍵だといえます。


 道徳的問題を的確にとらえるというこの指標における最初のレベルは、「道徳的問題を見つける」ことです。これは、教材に対する見方を明確にすることによっておのずと明らかになります。


 道徳科の教材の多くは、本時の学習で扱う内容項目が明確になるようにするという性格上、その内容項目に沿った議論ができるような仕掛けがあるものです。主人公が困難に直面したり、何かに気付いて行動を始めたりするといった状況として、道徳的問題が描かれていることが多いでしょう。あるいは、現代的諸課題として、道徳的問題をそのままストレートに表現しているようなものもあります。また、「感動、畏敬の念」のような教材の場合は、人間の力を越えたものに対する不思議さや偉大さ、畏れといったものとして道徳的問題が表現されている場合もあります。この仕掛けに気付くことが、教師の教材に対する見方の基礎をつくります。

 

 教材に対する見方によって道徳的問題を見つけることができたら、教材に対する考え方によって「道徳的問題で、何をどのように問うか」について、教師自身の考えを深めていくことが、道徳的問題を的確にとらえるためのレベルアップのポイントです。

 

 具体的に「正直50円分」という教材を例に考えてみましょう。この教材の中心場面は、「お釣りを50円多く渡したたこ焼き屋のおじちゃんに、もらった兄弟が、悩んだ末、お金を返す」という部分です。この場面をとらえれば、「お釣りを多くもらったので、返すかどうか悩んだ」ということや「迷ったけれどお金を返す決断をして実行した」ということを、道徳的問題として見出すことができそうです。そして、「お釣りを返した兄弟は、どんな気持ちだったでしょう」などの発問で、正直に行動した心情を類推してそのよさを見つめる学習とすることが多いでしょう。


 しかしこれは、教材の世界に限定された問いでしかありません。現実の社会では、お釣りが多いと気付いた時点で、店に伝えることが「信義上の義務」です。つまり、「返した時の気持ち」を問うことが、現実の道徳的問題に対する共通了解や納得解とは成り得ないのです。私なら、中心場面で「あなたならどうするか。それはなぜか」を問い、法の存在と内容を示したうえで、「正直にするのは何のため」という学習テーマに返って議論することで、道徳的問題の意味を見出す学習とします。

 

f:id:moralsmaster:20220204114819j:plain

 

 気持ちの問題でよしとせず、知らないでは済まない法の問題としてとらえることで、現実の社会に開かれた道徳科の学習となるのです。